Die Zeit Nr.50 9. Dezember 1999 (「ツァイト」第50号 1999年12月9日)

ヨーロッパはどこまで広がるか?

些事に拘泥するのはもう終わり!


トルコはEU加盟を希望している−他の12の国々同様。 ヨーロッパはこの問題を処理できるだろうか? EU拡大委員ギュンター・フェアホイゲンとの対談

ツァイト紙:
ヘルシンキのEU首脳会議において新たな歴史が書かれようとしています。ただちに中欧および東欧の10カ国とEUへの加盟交渉が始められます。これにキプロスとマルタが加わります。さらにヨーロッパはトルコも招き寄せています。こうした一連の状況が人々の間に漠とした不安感や心配さえも生んでいます。ヨーロッパはその市民の頭越しに成長を続けるのでしょうか。

フェアホイゲン:
もしヨーロッパがマーストリヒト条約の時と同じようにひたすら一方的に宣伝をするだけでしたら、EU拡大は失敗するでしょう。これまで西欧の政治は、市民に対しどのような歴史的チャンスが訪れているかを伝える努力を怠ってきました。一連の経緯があまりに官僚的に行われました。

ツァイト紙:
それではこのマーストリヒト以来最大のプロジェクトをどのように人々に理解させるお考えですか?

フェアホイゲン:
この課題の道徳的・歴史的次元を強調することなしに成功はおぼつきません。ポーランドあるいはチェコは40年以上前のEEC設立に加わっておりません。ヤルタ会談およびポツダム会談により、両国が参加できないようにヨーロッパの境界線が引かれたためです。第二次世界大戦の結果であり、すなわちドイツの罪の結果なのです。すべての民族がこの分断の犠牲となりました。この事実を我々ドイツ人はどの国民よりも理解していなければなりません。ヨーロッパの統合の恩恵、すなわち平和、自由、繁栄は西側の「我々のみ」が享受するもの、他の国民はご遠慮願います、などと誰が本気で要求できるでしょうか。

ツァイト紙:
東方拡大は遅ればせの「鉄のカーテン」の克服というわけですね。

フェアホイゲン:
そうです。それが目標です。東方拡大の否定は貧困に境界線を引くことになります。ヨーロッパの真中にリーメス(古代ローマ人の防壁)を築くことなのです。今日、常連で満足しようとする者は、明日新たに壁と鉄条網を築く羽目になります。それはとりもなおさず西欧の砦を意味します。  (後略)

(ツァイト紙の「東方拡大を推進する理由をどのように説明するか」との質問に答えて)

 私は三つの理由を挙げます。第一に我々はヨーロッパ全体に平和秩序を確立しなければなりません。民主主義、法治国家、人権。これらはあらゆる発展の基本です。第二に、拡大した共通の市場はすべてのヨーロッパ人が恩恵を受けるのです。東にも西にも繁栄と職がもたらされます。第三に、我々の時間は限られているということがあります。もし我々がいつまでも些事に拘泥するならば、ヨーロッパ統一に向けて長い道のりを歩む国々を失うという危険を冒すことになります。忘れてならないのは(EU加盟のための国内の)諸改革は中欧・東欧諸国に多大の犠牲を強いているという事実です。こうした状況は大衆迎合主義の手にかかればヨーロッパに対する反発に変わりかねません。それゆえ我々のパートナーには(EU加盟に向けた)確実な展望が必要なのです。

ツァイト紙:
多くのドイツ人はまずポーランドの日雇い労働者との競争にさらされる事態を恐れています。あるいは安価な輸出品に対しても。

フェアホイゲン:
私はそうした不安を承知しています。とりわけ国境地帯において。「東方拡大は失業をもたらし、企業を東方に流出させ、犯罪を西に招くことになる。その上つけを払うのはすべてドイツ... 」私はビジョンを描いて、こうした不安を一掃するつもりはありません。ただこれだけは理解してもらわねばなりませんが、拡大によってのみこうした事態はコントロールできるのです。国境における問題はどのみち存在します。しかし加盟交渉によって政治的な処理が可能になり、多くの問題に柔軟に対処できるのです。

ツァイト紙:
東欧でも不穏な空気が高まっています。ポーランドではデモの際にヨーロッパの旗が焼かれました。こうした事態を憂慮していますか。

フェアホイゲン:
誰もがすぐ覚えられるトリックがあります。気の進まない、しかし避けられない決定に対する責任をブリュッセルの人々のせいにするのです。そうなると悪いのはヨーロッパということになります。しかしそれは危険です。賢いやりかたは人々に真実を伝えることです。たとえば「この改造は共産主義の負債であり、たとえEUがなくとも実行しなくてはならないのだ」と。(中略)
加盟申請国の国民は、西側に半人前扱いされている、としばしば感じています。同じ例を我々は東ドイツの場合に経験しました。いわゆる「ベッサー・ヴェッシィ(優秀な西の連中)」です。「君たちが我々の仲間に入ろうとするなら、これとこれをこう直してもらわねば」などという言い回しを私はつとめて避けています。私たちはとうの昔から一緒の仲間だったのです。今私たちはヨーロッパを再びひとつに融合するまたとない機会を得ました。どの国も加盟すればそれだけヨーロッパを豊かにすることになるのです。

ツァイト紙:
トルコも(EUの)ヘルシンキ首脳会談でEU加盟候補国に選ばれました。これは市民に限度以上の要求をすることになりませんか。

フェアホイゲン:
真新しい問題という訳ではありません。トルコは30年以上も前からヨーロッパの戸口で待っているのです。2年前ルクセンブルクのEU首脳会談においてトルコは正式に拡大プロセスに組み入れられました。しかしそれ以来私たちは何の進展も見せていません。ですから今、新たな試みを始めるのです。第一に私たちはトルコを戦略的にヨーロッパに近づけようと考えています。昔から私たちの利益になる関係なのです。私たちはヨーロッパ的で民主的なトルコを必要としているのです。それはその地域において安定のためのひとつのファクターになるはずです。第二に、私たちはトルコ国内における基本的な改革に期待をかけています。それが成し遂げられた後、はじめて加盟交渉を始めるのです。(後略)

ツァイト紙:
ではあなたはトルコをヨーロッパに位置づけるのですね。

フェアホイゲン:
はい。しかしトルコはまだ、私たちがヘルシンキ首脳会談後に加盟交渉を行う12カ国と同じ段階には達していません。そんなに早くトルコの加盟が実現するとは思っていません。そもそも私たちがアンカラとEU加盟の交渉にはいるかどうかも、今の段階では誰にも予測がつかないところです。私はそうなるように希望し、願っています。しかし一方でトルコはいくつかの重大な障害を取り除かねばなりません。たとえば死刑制度の廃止です。そして加盟交渉の前に私たちがすべての加盟候補国に設定している基準を満たさねばなりません。すなわち民主主義、法治国家、人権、少数民族の保護、および隣国との紛争を平和的に解決しようとする態度です。

ツァイト紙:
それではあなたのお考えになるヨーロッパの境界はどこになりますか。ボスポラス海峡ですか、ウラル山脈ですか。

フェアホイゲン:
今日その質問に答えられる人間はおりません。打ち明けますと、最近カザフスタンが問い合わせてきました。もしカザフスタンまで含めると、EUはほどなく中国との国境に達することになります。私の意識にあるのは、トルコが正式にEUの一員になれば、イランとイラクに境を接することになるということです。今日までEUはその境界を定義していません。条約には「欧州連合は、加盟を希望し、その資格を満たすあらゆるヨーロッパの国民に開かれている」とあるだけです。(後略)

ツァイト紙:
欧州委員長のロマーノ・プローディは「ヨーロッパはもうそろそろ境界を明確にすべき時だ。そうすれば予定されている拡大も容易に進められよう」と要求しています。

フェアホイゲン:
それはその通りと考えます。しかしそんなに簡単なことではありません。「15プラス12あるいは13でおしまい。それ以外はヨーロッパの外」などと私たちがあっさり宣言できる訳ではありません。クロアチアはどうでしょうか、バルカン半島はどうでしょうか?また、ロシアあるいはウクライナは欧州連合に入る展望がない、などと断言することは私にはできません。しかし今の段階でモスクワあるいはキエフに出かけて、「お次はみなさんですよ」などと約束するのはまったく誠実さに欠けます。  (後略)

ツァイト紙:
EUの拡大委員の仕事はドイツ人のあなたにとって特別な意味を持ちますか。

フェアホイゲン:
もちろんですとも!その意味を私はポーランドでもチェコでも肌で感じました。私にとってこれはヨーロッパの分断を克服するチャンスを与えられたことなのです。この仕事に私は自分の生涯の、私の世代の政治的使命を見ているのです。

 (ツァイト紙のインタビュアーはクリスチャン・ヴェルニケとヨアヒム・フリッツ=ファンナーメ)

原題 : Wie gross wird Europa?
Schluss mit der Erbsenzaehlerei !
Die Tuerkei will in die EU - wie zwoelf weitere Staaten. Kann Europa das verkraften? Ein ZEIT-Gespraech mit EU-Kommissar Guenter Verheugen

訳:中島大輔(C)